河江肖剰、佐藤悦夫他
「ピラミッド」といえば、みんなが思い出させるのがいわゆる「記者の大ピラミッド」だろう。しかしもちろん、ピラミッドは何もエジプトだけの転売特許ではない。アジアやアメリカ、ヨーロッパなど人類の長い歴史を通じて、ピラミッドは全世界で時期、場所を問わず造営されてきたのだ。
この本はその世界のピラミッドを美しい写真の数々のイラスト、そして格調高い解説文によって紹介するピラミッド本の決定版である。分量的にはやはりエジプト編が半分を占めているが、テオティワカン編にも相当な紙幅が十分であり、読んでくれるのは十分。
執筆にあたる6人の著者はすべて日本の歴史学・考古学界を代表する精鋭だけだ。簡単に紹介しておけば、エジプト編担当の下降チョイング氏は名古屋大学高等研究員ジュン教授を務める第一線の考古学者。テオティワカン編の佐藤越夫さんは富山国際大学現代社会学部教授で、専門はメソアメリカ考古学。ヨーロッパ編の二人、佐藤優さんと高橋涼介氏はそれぞれ神戸大学大学院と東京都立大学の準教授で、佐藤氏が古代ギリシャ、高橋氏は西洋古代史の専攻だ。アジア編の下田一田さんは筑波大学准教授で建築遺産学の研究家。そして「エジプト文字とメロエ文字」の宮川昌氏は関西大学東西学術研究所PDで専門は歴史言語学のほか多数。
この真用からも明らかなように、本書はまず、徹底的かつ学問的な正確さに主眼が置かれている。数十年にわたる着実な考古調査は言えず、ドローンを利用した3D計測調査や、宇宙船でピラミッドを透視するミューオングラフィー調査など、最新鋭の研究成果も余りなく含まれ、専門的な知識が無理なく学べるある構成だ。
本書によれば、読者は既存の固定観念を破る「新しいピラミッドのイメージ」に触れ、「ピラミッドの乾燥にかかった当時人間の知恵と奮闘と絶望」を着実に感じることができるという契約だ。
まさにピラミッドに関する正統派の教科書という決定版だ。読者によってはいわゆる「教科書」的な、正統派に属するより、そこから逸脱したことを好む傾向にあると思われるが、逸脱を楽しむためには、まず何より本格を着実に踏むことが必要だと思う私のようなタイプの人間からは本書を全力で追求するところだからだ。