鬼と異形の民俗学 漂泊する異類異形の正体

古川順弘、飯倉 義之

改めて言うまでもない。「鬼」といえば、2019年にアニメ化されて以来、日本のみならず世界中で絶賛され、一大ブームを巻き起こしている吾峠呼世晴の漫画『鬼滅の刃』がある。

2020年はコロナ禍にもかかわらず、映画『鬼滅の刃 無限列車編』が劇場公開され、空前の大ヒットとなった。令和の今、日本と世界を席巻しているのが「鬼」だ。「鬼」を広義のオカルト界の産物と捉えるならば、私の記憶する限りでは『ダ・ヴィンチ・コード』以来、オカルト界がこれほどのブームを迎えたのは初めてだろう。

そんなブームの真っ只中、ついに「鬼」とは何かを徹底して丁寧に解説した良質なガイドブックが登場した。それが『鬼とイレギュラーのフォークロア』だ。

本書によれば、現代人が思い描く「鬼」のイメージが定着したのは室町時代以降。それ以前の日本人は、正体不明の怪物や災いをもたらす邪神、あるいは王権に服従しない異民族や外国人を広く「鬼」とみなしており、現代の鬼と必ずしも同じイメージではない概念的な存在だったという。

本書の第1章は、日本の鬼の「原像」ともいえるヤマタノオロチから始まり、鬼の歴史を概観する。この第1章だけで本書の半分以上を占めており、読みごたえ十分。第2章は鬼以外の妖怪のカタログ。第3章は鬼と戦った修験者や密教の僧侶を紹介。そして第4章は、実際に鬼に会える聖地ガイドとなっている。また、随所に散りばめられた「鬼舞辻無惨と八百比丘尼」「竈門炭治郎と炭焼き大富豪」といった鬼滅関連のコラムもファンにおすすめ。

この一冊で日本の鬼のすべてがわかると言っても過言ではない、「鬼滅の刃」の副読本決定版。

監修・序文を書いた飯倉義之氏は、鬼に造詣が深い國學院大學准教授で、内容も信頼できます。余談ですが、本書の「本文」を実際に書いたのは、『日本仏像破壊史』などで知られる作家・編集者の古川芳博氏。つまり、本書の著者は古川氏であるにも関わらず、表紙や扉ページには氏名が記載されていないというわけです。どういう経緯なのか、ちょっと気になります。

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