安倍成道
陰陽道の達人として知られ、神秘的な伝説に彩られた安倍晴明だが、歴史に残る2人の息子以外にも、私生活では5人の側室と多くの子女がいた。晴明の死後、その5人の側室の子孫は「陰陽五家」(木、火、土、金、水の5つの要素にちなんで名付けられた)の祖先となり、現在まで正史には記されていない隠れた陰陽師集団として、国の精神的安全を守るために活動し続けている。
本書の著者である安倍成道は、陰陽五家のひとつ「水の家」の継承者。晴明以来77代目の陰陽師として、先祖の稀有な霊格と、代々受け継がれ、決して表に出ることのなかった多数の秘伝書を受け継いでいる。この設定だけでもオカルト好きの注目を集めるに十分である。
著者は1080種の陰陽術を駆使しているが、本書では「結界」にまつわる秘術を数多く明かしている。
結界とは、本来は霊的に場所を隔てる線で、晴明はこれを創り上げ、独自の術として改良した。晴明自身が張った結界は千年経っても効力を保ち、現在も使われている。著者が張った結界は400年も持つ。一般的に悪役とされる蘆屋道満は晴明の親友だった。陰陽師と他の修行者(修験道や外国勢力など)の間で結界をめぐる暗闘は今も続いており、陰陽師が張った結界は第三者によって破壊されることも多い。現代の陰陽師も慈善事業として結界を張るのではなく、依頼されて高額の報酬をもらって施術する。本書には他では見られない興味深い話が満載である。
まるで科学が放棄され、平安・戦国時代の世界観がそのまま続く、日本と歴史の別世界線を覗いているかのようだ。しかし、これは現代でも脈々と続く陰陽師の仕事なので、既存の歴史観は文字通り崩壊を余儀なくされる。
余談だが、ドイツのオカルト界では生命力やオーラを「オド」と呼ぶが、本書によると「人間だけでなく動物や植物、石など自然界のあらゆるものに存在しているエネルギーやオーラのようなもの」も陰陽道では「オド」と呼ぶそうだ。ちなみにモンゴル語では星もオド。星と五芒星といえば、陰陽や五行を表す陰陽道のシンボルでもある。まあ偶然かもしれないが。