「古史古伝」で 読み解く王権論




原田実

九鬼は古代天皇と即位の礼をどのように描いているのか。古文書から三種の神器を探ります。

2018年末から2019年にかけて頻繁に使われたフレーズが「平成最後の○○」でした。考えてみれば、これはなかなかすごいことです。なぜなら、平成は「一天皇一元」を目指す近代天皇制において、初めて終了日が定められた元号だったからです。

さて、元号について著者は「天皇は時代の転換点を元号という形で自らの体で示す装置だった」と言います。そして、本書のテーマであるいわゆる「古史・伝説」とは、現実よりはるかに遡る皇室の時間的起源を記した文書群です。

古史・伝説とは、太古の昔からの古代史を記録した「古文書」であり、正史である『古事記』などの書物とはまったく異なります。いずれも荒唐無稽な内容だが、ロマンにあふれ、興味を尽きない。しかし、本書における著者のスタンスは一貫して学術的かつ合理的であり、これらの古代史や伝説を「近世から現代にかけての古代日本史の『捏造』」として切り捨てた上で、「日本人が皇室に期待していたもの」を明らかにするための手段として解釈しようとしている。

第1章と第2章では、暦や年号は時間管理の手段であったことや、日本では「正史」ではなく「勅撰和歌集」が時間管理の一形態として使われてきたことなど、興味深い指摘がなされている。

第3章と第4章では、古代史や伝説、地方の王室の伝統がようやく取り上げられる。本書によれば、例えば、現代の贋作である竹内文書は、古代天皇が神代文字を作らせることで「文字は王権によって作成・管理されるべき」という考えを主張し、富士宮下文書は著者が実際に経験した遷都(=明治維新)の衝撃を色濃く反映しているという。

そして第5章では、著者は、今は失われてしまった即位の儀式「即位灌頂」や三種の神器の謎について論じている。本書は、古代史や伝説に興味がある人だけでなく、いつもと少し違った視点で日本の歴史や天皇について考えたい人にもおすすめだ。また、随所に明かされるマンガやアニメへの造詣の深さも興味深い。

著者が分子生物学など最新の科学まで取り入れていることに感心した。

「古史古伝」で 読み解く王権論