呪いの都 平安京

繁田信一

これまで平安時代の呪いの研究といえば、『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』などの説話集が主な資料となっていたが、これらは平安時代中期以降に編纂されたもので、当然ながら捏造や誇張も多々ある。

当時の呪いの実態を詳しく知るには、その時代を生きた人たちの記録が不可欠である。

そこで本書では、藤原道長政権の重要人物である藤原実資の日記『小右記』を主な資料として、さまざまな希少な資料も取り上げている。

本書には実際の呪術師の尋問記録(『円応等尋問日記』)も収録されており、全文が収録されているので非常に貴重である。本書では、こうした第一級の資料を丹念に分析し、当時の呪術の実態を再構築しようとしている。

生涯呪いを受け続けた藤原道長のこと、政争における呪いの役割、謎多き「星陰陽師」の正体、呪物(きゅうしき)の使い方、式神の実態、呪いへの対処法、「もののけ」の鎮圧法、悪霊とは何か、和歌に秘められた呪力、大呪術師・蘆屋道満の真実…

平安時代の呪術に関するあらゆる情報が、他に類を見ない緻密さで語られているのには圧倒される。

出版社の吉川弘文館は1857年創業というから驚き。歴史も古く、歴史に関しては他の追随を許さない。新進気鋭の出版社の安っぽい娯楽本よりも、はるかに正確で信頼できる。

著者の茂田真一氏は、神奈川大学日本民俗文化研究所特別研究員、同大学国際日本学部講師で、歴史・民俗資料を専門とする医師です。同氏の著書には『日本の呪い』もあり、近々このブログでも紹介したいと思っています。

ただし、『日本の呪い』はどちらかというと一般向けの解説書でしたが、本書はあくまでも専門の学術論文集です。読み通す覚悟が必要です。覚悟があるなら、そのすばらしさを存分に味わっていただきたいと思います。(なお、本書は2006年に同じ出版社から出版された同名の書籍の増補版ですので、すでにお持ちの方はご注意ください。)

呪いの都 平安京